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D2Cブランド立ち上げ時の検討順番を徹底解説

2023/09/03

chipperではクライアントのD2Cブランド立ち上げを、商品が存在する状態から支援することもあれば、何もない0ベースから支援させていただくこともあります。

やはりクライアントのお悩みとして、D2Cや新規事業を立ち上げる際のポイントがわからない!という方は非常に多くいらっしゃいます。

本記事は、そういった悩みを持つ方のための指針となるようにステップで理解いただけるように書きました。
マーケティング用語の基礎学習がある程度できるようにも書いてありますので、マーケター育成の参考書代わりにもお使いください。

 

この記事はこのような方向けに書いています
  • D2Cブランド、新規事業を立ち上げたい!
  • でも何から考えたらいいかわからない…

 

D2C・新規事業企画でよくある間違い

「どう戦うか」から先行していませんか?

これ、めちゃくちゃよくあります。
テクニック論やプロダクト・サービス起点から先行して議論をしているケースです。
例えばインフルエンサーにギフティングしてInstagramなどのSNSでシェアしてもらう、とか、今パーソナライズが流行っている中で●●のパーソナライズが存在しないから自分が先にやろう、というような手法先行型になっているようなクライアントです。

これ自体は必ず必要な考え方です。D2C展開をする上では、必ず通らなくてはいけない議論ですが、この議論が起点になってしまってはいけません。
D2Cに限らず新規事業全てにおいて起点となるのは、「どう戦うか」を決めることよりも「どこで戦うか」「何故ここで戦うか」を決めることです。

「そこで戦い続けた先に、消費者のライフスタイルをどう変えていきたいか」を定めることこそが、D2C・新規事業企画の一丁目一番地です。

こちらの記事で触れているように、コトラーの提唱するマーケティング4.0においては「プロセスエコノミー」が最重視されます。
消費者に強い共感を生むためには、理念とビジョンを固めて、ブレない芯を定めることが必要です。

 

いろんな人に売りたい商品になっていませんか?

弊社へお問い合わせをいただく中でよくあるケースの一つが、「この商品なんとなくニーズがありそう」というような、ターゲットが曖昧なケースです。

例として、D2Cとは関係ありませんが、あなたが美容室を立ち上げることを想像してみてください。
場所は商店街がある駅前の一等地ですが、そういった場所は競合も多いです。
「20代女性」「60代男性」全員が訪れたいと思えるような美容室を作ることができるでしょうか?
全ターゲットにとって無難な美容室は作ることはできますが、それは誰にとっても「絶対に行きたいお気に入りの美容室」にはなりません

D2Cブランドの企画も同じです。いろんな人の「2番手以降」の商品は作れますが、一番のお気に入り商品になるためにはターゲットをよく定める必要があります。

ターゲットを狭めてしまうと売上が下がってしまうのではないか? そんなことはありませんのでご安心ください。
有名なパレートの法則ですが、売上の80%は、顧客の上位20%が作ります。
つまり、20%の顧客を見出して、その層にだけ明確なアプローチを行うことこそが重要なのです。

パレートの法則

マーケティング用語で、個人単位で購買時に想起される商品群のことを「Evoked set(エボークトセット)」と言い、その中で一番選ばれる確率の高い商品を第一想起(Top of mind)商品と言います。
消費者が商品を購買する際、その目的を満たすエボークトセットの中から、選択確率に応じてランダムで商品が選択されるようなメカニズムと捉えてください。
また、「ターゲットの中の特にコアなターゲット」を「プライムプロスペクト(PP)」と言います。
これらのワードはマーケターとして覚えておくべき言葉なので、細かい考え方についてはこちらの本を推奨します。

 

D2C展開の戦略総論

D2Cの展開とは、総じて言うと

  • どれだけの人数の「エボークトセット」に入れるためにブランドエクイティを高めて効果的にPRするかという面の戦略(ビール飲むならキリンかエビスかアサヒかなー)
  • その中で第一想起に入れるか、もしくは第一想起に近づけるかのシェア獲得戦略(マヨネーズも色々あるけど一番はキューピーでしょ)
  • これらの2つを面で実行するために、まずはプライムプロスペクトを決めて特定層の認知とシェアを高める戦略(後ほど解説します)

というKSFを戦術→KPI→タスクとブレイクダウンして日々運用をしながら、アジャイル型でPDCAを回していく戦いでしかないということです。

 

D2Cブランド・新規事業を企画する際に考える順番

① WHY(=PURPOSE)を決める

  • この事業、プロダクトを通じて誰のどういう”不”を解消していきたいのか
  • その”不”を解消した先に、世の中をどう変えていきたいのか

この2つを決めます。

事業とは、最初は個人のエゴのむき出しで構いません。
極端ですがわかりやすい言い方をすると、この世に生まれたからには何を為したいか、自分が命尽きるまでにどういう足跡を残していきたいか、どう世の中を変えていきたいのかを事業に落とし込むのです。

この時重要なのは、自分にできるかできないかという基準で考えるのではなく、人生を懸けてやりたいかという想いを最重視して決めることです。
ビジネスに感情は不要とよく言われることがあります。1→100のフェーズでは確かに不要になるタイミングもあります。しかし、0→1においては感情≒想いが最重要です。
ビジネスにおける売上・利益とは「誰にどういう豊かさを提供したいか」という想いと行動の集積でしかありません。その想いを受け入れてくれる人にどれだけリーチできたかで売上が決まります。

「WHY=ブランドパーパス」を定め、これをステートメント(明確な文章)化します。
つまり、私たちはこういう世界を創りたいがためにこの事業を行います、という憲章を作ります。

これにより、以降のWHOやWHAT、HOWを定めるための指針ができます。
また、プロジェクトメンバーの採用活動も、ただのスキル採用ではなく共感型採用を行うことができます。

マーケティング3.0以降必要だと言われている考え方が、「ブランドパーパス」です。
“I=私が”の視点での「ブランドビジョン」を、”WE=消費者と共に”の視点での「ブランドパーパス」まで昇華させます。消費者と共にどういった世界を創っていきたいかを提示します。

 

② WHO(1回目:課題設定)を決める

ここで決めたブランドパーパスに対して、最も価値提供を受けるであろう人物像と、その人物の抱えている課題設定を行います。
「こういうニーズを持っている人」という部分を定めてください。

重要なのはそれが消費者のインサイト(本人も気づいていない本音)に根ざしているかどうか、です。

「インサイト」とはなんでしょう? インサイトを理解してもらうための有名な例として、マクドナルドの例を挙げます。

マクドナルドへ寄せられるお客様の声として「ヘルシーな食事がしたい」という物がありました。
これは世の中の潮流からしても極めて自然な声であり、ただインサイトというよりは「顕在ニーズ」に近しい物であったと言えます。
その声に対してマクドナルドは、新製品としてサラダマックなる物を投入しましたが、結果は売れ行きが悪く終売へ。
その後投入した新商品「ビッグマック」は大成功。今でも販売しています。
なぜならマクドナルドに対して消費者が感じていたインサイト(顕在的には言わない本音)は「ヘルシーさ」ではなく「自分へのご褒美」だったからです。
本当に「ヘルシーさ」を求めている顧客は、マクドナルドには訪れないということがわかりました。

声の大きい顧客の顕在化している声だけに左右されず、消費者のインサイトを深く観察して何が本質的に求められているかを洞察することが重要です。

 

③ WHATを決める

何を価値提供するかを決めますが、ここで決めるのはインサイトに対して提供するバリュープロポジションです。
製品やサービスも要素としてはありますが、あくまでどういう価値・意味の提供をするか、が考える主軸となります。

ここで重要なのは、機能的価値だけではなく情緒的価値も併せて考慮をすることです。
機能的価値とは、言い換えると「製品やサービスの機能・性能に対する価値」であり、情緒的価値とは「その製品やサービスから受ける印象に対する価値=精神的価値」のことです。

具体的には、②と③とのプロセスでこちらの「バリュープロポジションキャンバス」が埋まっている状態となっています。

VPキャンバス

このVPキャンバスをより精緻な内容にブラッシュアップするため、同質の価値提供をしている競合に対してのリサーチを行って、STP分析を行います。
競合とのポジショニングの中での勝ち筋をすり合わせながら、よりバリュープロポジションを強固な物にしていきます。

STP分析については、こちらの記事でまとめてありますので参照ください。

 

④ WHO(2回目:プライムプロスペクト)を決める

ターゲットの中のターゲット=プライムプロスペクト(PP)を定めます。

この時の最大の注意点ですが、意味のないターゲティングにしてはいけません

例えば「30歳独身女性」というデモグラフィック情報をプライムプロスペクトにしている例は、よく見受けられます。
しかし、ニーズが多様化している現在、デモグラフィック情報で画一的にくくったところで、それは本当に同一のセグメンテーションになっているのでしょうか?
ニーズに対しての課題解決のための価値を提供するものがプロダクトであると考えた時、ニーズ軸でセグメンテーションを行うことがより本質的です。

上記の「30歳独身女性」をターゲットにしたサプリメント製品を例にしてより深堀りをしていくと、

  • なぜ30歳女性なのか?
    →市場調査の結果、20代のサプリメント需要でダイエットの次に多いのがバストアップに関する物だったが、30代ではその層がほとんどダイエット層に移動していることがわかった。なおかつ比較系のキーワードも20代に比べ大幅に増えているということがデータから導き出された。
    このデータから、30歳からは「ダイエットの悩みが深くなってきたが、どのサプリメントが自分に合うかわからない」というインサイトが大きいという考察を行った。
  • なぜ独身女性なのか?
    →既婚女性のデータのみに絞って市場調査を行った結果、サプリメントでは妊活関連の物が多かった。妊活は全く本商品の企画とはベクトルが異なるため、ターゲット外と判断した。

というターゲット決定の背景があることがわかります。

このことからよりニーズ軸に沿ったプライムプロスペクトは、

結婚や妊娠は強く意識しておらず、良い人がいればぐらいで考えていて、仮に良い人と出会えなくても自分の人生を楽しみたい。
30歳になってから太りやすくなってきたが、忙しくてなかなか運動にも時間が割けないのでサプリメントで内面からのケアをしたい。
ただどのブランド、どの商品が自分に合うかわからず、いろんな口コミやインフルエンサーの投稿を見かけるが、うさんくさくて信用ができない。と考えている女性

であることがわかります。

このようにプライムプロスペクトはデータと調査からインサイトを導き出し、コアなWHOを定めることです。
最終的な結論が「30歳独身女性」だとしても、プライムプロスペクトレベルまで細かく落とし込んでいくことがD2C展開においては重要です。

 

⑤ HOWを決める

ここで初めてプロダクトを具体的に落とし込んでいきます。
具体的にはマーケティングミックスの4Pに則って考えていきます。
4Pとは、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(広告)です。

Product(製品)

③で固めた機能的価値・情緒的価値が、④で定めたWHOと合理的にマッチしているかどうかを検証してください。
加えてプロモーション要素も加味した、「バズ要素」まで考慮した、より具体性の高いプロダクトへ落とし込んでください。
ここについては、予算がある場合、プロダクトプランナーという職種の方をプロジェクトに一時的にでもアサインしていくと良いです。

Price(価格)

③で行ったSTP分析に応じて、自社の獲得したいポジショニングに則った価格設定をしてください。
④で決めたプライムプロスペクトが支払える金額を設定しましょう。

Place(流通)

D2Cでは主にオンライン流通が考慮対象となりますが、本格販売を始める前のマーケット調査も兼ねたクラウドファンディング展開や、ユーザーの刈り取りと認知度アップを狙ったモール展開などが流通網としての考慮対象となります。

Promotion(広告)

PRを意識し、メディアにどう取り上げられるかを考えてください。ここまで定めてきたブランドパーパスをストーリーテリングの形に落とし込み、メディアが取り上げたいストーリーに仕上げましょう。
有料広告展開時は、このストーリーと矛盾がない形での展開を検討してください。
例えば「他の化粧品は広告にかける原価が高すぎて本質的な化粧品になっていない、広告文もほぼ嘘ばかり。だからこそ消費者に真摯に向き合う本質的なプロダクトを作りました」というコンセプトにも関わらず、アフィリエイト展開が主軸では矛盾しています。

また、この時のコツは、4Pの内の最低でも2つに、強いUSP(Unique Selling Proposition)を持たせることが重要です。

USP(Unique Selling Proposition)とは、消費者に対しての独自の価値提案のことです。
消費者目線では、「そのブランドを選ぶ理由」とも同義と言えます。
同様の意味で使われるワードとしてPOD(Point of difference)があります。
USPを決める際重要なのは、差別化のための差別化にならないように注意をすることです。
あくまで消費者が求めているインサイトに対しての訴求価値をコアに据えたUSPを落とし込んでください。

 

次はバリューチェーン構築フェーズ

ここまで決まったところで、製品製造やサイト構築、物流選定などのバリューチェーン構築のフェーズに入ります。
OEM先の選定・物流先の選定・カートシステムの選定、などです。

ただし、今回の記事の主旨としては、マーケティングとして考慮すべき内容となりますので、バリューチェーンについては別記事にて機会があれば触れさせていただきます。

ここまで挙げさせていただいたプロセスは、なかなか自社のメンバーだけで行うと意見が偏ってしまうというケースも多いです。

そういった企業様向けに、chipperでは伴走サポートサービスを行っております。
もし少しでもご興味を持っていただけた方は、下記よりお気軽にお問い合わせください。

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