こんにちは、chipper西田です。
今回は、レッドオーシャン・ブルーオーシャンの戦略上の違いを起点にして、「ブルーポンド戦略」について解説します。
ブルーポンド戦略は、特にD2C展開において必ず意識しなくてはいけないため、これからD2Cを考えている方は必読の内容となります。
レッドオーシャン市場とは、ビジネス用語で「競争の激しい業界」のことを指します。
レッドという言葉がチョイスされている由来は、血で血を洗う市場という意味合いから来ています。
需給バランスとしては供給の比率が高い状態で、市場のニーズに対して多くの企業が参入しているため、技術競争や価格競争になることが多いです。
赤字覚悟で流す血を、耐え忍んだ会社だけが生き残れる市場となっているため、レッドオーシャンと呼ばれます。
とりわけEC/D2Cの業界においては、レッドオーシャン市場は「化粧品/健康食品業界」を指すことが多いです。
なぜ化粧品/健康食品がレッドオーシャンと言われることが多いのかについては、トピックとして下記にまとめましたが、
本記事の本筋とは関係がないため、「ブルーポンド戦略」にご興味のある方は次の章まで飛ばしてください。
化粧品/健康食品の市場は「リピート通販市場」と呼ばれており、その名の通り定期通販での購入が主体となります。
通常購入やお試し購入などが、最終的には定期購入に紐付けられるように戦略を構築します。
実はこの市場は少し前まで、参入事業者の数に対して相対的に規制が弱かったため「モラルを守らない事業者が得をする」という状況になっていました。
具体的には、直近5年程度で下記のような問題が発生し、現在に至るまで都度法改正によって対応されています。
・定期解約がしづらい問題:いつでも定期解約できます!と謳われていたものの、電話のみでしか解約できずコールセンターがほぼ繋がらない。(意図的にそのような状況を作っているケースも)
・定期じゃないように見せて実は定期問題:定期契約と書かれておらず、定期ではないと考えて消費者が購入したが、実は定期購入となっていた。
・定期縛りじゃないように見せて実は縛り問題:購入フロー上どこにも大きくは書かれていなかったが、回数縛り(定期最低継続回数)が存在し、購入後に発覚した。
など、いくつかの問題が発生しました。これにより発生した法改正が「定期総額表示」「薬機法改正」などとなります。
法改正の結果、これまでできていたモラルの関係ない売り方をする事業者が淘汰され、業界は少しずつ健全化されています。
定期縛りがしづらくなり、特に2021年8月の薬機法改正では、違反事業者の追加課徴金が大きくなり規制が強化されました。
その結果、攻めた広告がしづらくなり、昨今起きている問題が「CPA/CPOの大高騰」となります。
CPOベースで考えると、現在では商品の定期価格の約3倍〜5倍まで高騰しており、CPOの削減がしづらくなりました。
現在は、戦略の肝はCPOの削減ではなく、いかにLTVを上げるかが勝負となっています。
(それでもCPOが300%であるとしたら、基本的には最低でもリピート3回は前提とした仕掛けが必要です)
LTVを上げるための戦術論は弊社でもいくつか持ち合わせていますが、そこの戦術論まで深堀りしてしまうと更に本筋から逸れてしまうため、もしご興味がある方はこちらよりお問い合わせください。
このパートでお伝えしたいことは、レッドオーシャンという市場は、赤字覚悟でもシェアを取りに行く戦略を行わなくてはならず、特に資金力のない会社にとっては非常に攻略難易度が高い市場であるということをご認識ください。
ブルーオーシャン市場はレッドオーシャンの逆で「競争相手の少ない市場」となります。
現時点において、「この市場」と断定できる物はありません。
(もし私がそれを断言できるのであれば、私が真っ先にその市場を開拓するビジネスを行います。笑)
まず前提ですが、現代においては、この世に100%ブルーオーシャンという市場は存在しません。
日本ビジネスの父とも言われる渋沢栄一氏が日本に銀行や鉄道を初めて作った時代であればいざ知らず、物・サービス・ビジネスモデルがある程度出尽くしている昨今では、
必ず何かしらの市場に付加価値をつけたり価値をあえて削ったりするという考え方が、現在におけるブルーオーシャン戦略となります。
例えばブルーオーシャンの例としてよく挙げられる、シルク・ドゥ・ソレイユも「サーカス」という市場の中で付加価値を変えてブルーオーシャンを作り出した結果、「サーカスと言えばシルク・ドゥ・ソレイユ」という第一想起に至るまで成長しました。
つまりブルーオーシャンとは、誰かしらが何かしら既に行っている事業に対して、視点を変えてプラスアルファの価値提供を行う、ということです。
この「プラスアルファ」とは一体なんなのか? どのように考えたらいいのか?という点こそが本記事で触れる核心となります。
まずは上記のシルク・ドゥ・ソレイユ以外に、ブルーオーシャン市場を開拓した例についてピックアップします。
各項目ごとに矢印で追記させてもらいましたが、ブルーオーシャン市場は、開拓後は必ず競合の参入に合います。
ブルーオーシャン戦略の最大の弱みは「圧倒的な技術よりも視点の違いだけで市場開拓しやすいが故に、競合が参入したくなるほどの魅力がある市場である」ということです。
つまり裏を返せば、ブルーオーシャン戦略において重要と言えるポイントは「競合に市場を獲得される前に、スピード感を持って資金を投下してリーダー企業となり、先行して市場を取ること」ということです。
そのため、実際に開拓するということを考えた時には、競合他社に先行して市場を獲得しなくてはいけないため、圧倒的な展開スピードで市場を広げるための資金力と組織力が必要です。
レッドオーシャンでは「耐える資金」が必要なように、ブルーオーシャンでは「先行開拓の資金」が必要です。結局どちらの戦略でも資金が必要なのです。
しかし、現実的に考えると、競合他社に先行するために必要な資金は莫大で、そのような資金を獲得することは容易ではありません。
そのため、資金力や組織力の欠けている企業においては、本記事で提唱させていただく「ブルーポンド戦略」こそが、成功確率の比較的高い戦略であると考えています。
さて、いよいよここからブルーポンド戦略について踏み込んで解説していきます。
まず、ブルーポンド戦略とはなんでしょう?
ポンドとは、直訳すると「池」となります。オーシャン=海に対してのポンド=池です。
つまり、海のように大きなマーケットで魚を釣ろうとするのではなく、まずは小さな池で魚を釣る、という考え方です。
例を交えて解説していきます。
日本でブルーポンドを意識している企業として有名なのは小林製薬です。
例えば「女性のニキビケア」という市場自体は大きなマーケットではありますが、無数に存在する商品の中からでは、消費者は何を選択していいかわからなくなってしまいます。
小林製薬はおそらく、より個々の消費者に選ばれる商品を作るために、様々な女性に対してのニキビへの悩みのインタビュー調査(定性調査)を行ったのだと思われます。
その結果生み出されたのが、背中専用ニキビケア商品「セナキュア」です。今となっては定番の大ヒット商品ですね。
ブルーポンド戦略の本質は、投下する資金量ではありません。その本質は、マーケティング戦略としてのベクトルの軸の持ち方と、時間軸での拡張性です。何よりもマーケティング調査を重ね、顧客インサイトを捉えた商品を作り出しているからこそ、ここまでブルーポンドを攻めた戦略が可能なのです。
私も商品企画をクライアントと一緒に行うことが多いので気持ちは大いに理解できるのですが、自信のある商品であればあるほど、商品を多数のお客様に認知して買って欲しいという気持ちが強くなってしまいます。
結果、商品のターゲットがうまく定まらず、誰の心にも刺さらない商品になってしまうことがよくあります。
1人でも多くの人に広めたいという気持ちは痛いほどよくわかるのですが、これからD2Cブランドの展開を考えている方は、広く商品をアピールして売れる、という市場は既に狩り尽くされているという認識を持ってください。
実は、これこそが「D2C」というマーケットが産まれてきた要因の一つです。
そういった広く売れる商品はAmazonや楽天で売れ尽くしたからこそ、消費者により狭く深く刺さるためのコミュニケーションが図れる「D2C」が盛り上がっているのです。
(それ以外にも様々な要因があります。詳細はこちらの記事をご覧ください)
直近でブルーポンド戦略を踏襲しつつ、非常に上手い展開戦略を行ったと個人的に感心させられたD2Cブランドは、パーソナライズサプリメントで有名なブランド「FUJIMI」です。
ここから先、FUJIMIを例にしながらブルーポンド戦略を紐解いていきます。
ブルーポンド戦略の前提となる知識として、下記の2つのマーケティングに関する用語を覚えてください。
YouTubeのバンパー広告(動画が流れる前に出る広告)で行われるブランドの認知度調査では、助成想起に関わる調査が行われる傾向が多いですが、実際に購入に繋がる要因となるのは「純粋想起」と言われています。
さて、なぜこの単語を先に覚えてもらったかと言うと、これらの考え方はブルーポンド戦略で非常に重要な考え方となるからです。
ブルーポンド戦略の基本としては、まずはターゲットとなる特定層(プライムプロスペクト)を定めること、そしてその層の純粋想起をいかに獲得するかが最重要となります。
逆に助成想起は二の次です。まずはブランドのコアなファンを作るのです。
この考え方を活かしてブランド認知度調査を行い、消費者のマインド占有率を視覚化する手法が、トップオブマインド分析と言われるマーケティングの考え方です。
FUJIMIの例ですが、まずは20代女性がサプリメントに対して抱えていた「自分に効くかわからない」「なんとなくダサい」というペインに対して、
「あなたにだけ合う(オシャレな)診断型サプリメント」という訴求で、20代女性向けの認知シェアを獲得しました。
ブルーポンド戦略の基本概念として、まずは右下のニッチ層を獲得しますが、その次は提供する年齢層を拡大してリーダー企業を目指します。
ところがFUJIMIは異なる戦略を取り成功しました。
パーソナライズサプリメントが成功したFUJIMIが取った次の戦略は、「20代女性向けパーソナライズ」という個性をブランドの中心線に据え、サプリメントではなく別プロダクトでのパーソナライズの展開に踏み切りました。具体的にはプロテインやフェイスマスクなどの20代女性向け商品です。
サプリメントと言えば? ではなく パーソナライズと言えば? での純粋想起において、圧倒的なシェアを獲得する戦略です。
正直、私はサプリメントという旧来の軸で固定してブランドを捉えてしまっていたので、パーソナライズ軸での横展開は予想外でした。
このように、トップオブマインド分析の軸は一つではありません。(サプリメントと言えば? → パーソナライズブランドと言えば?)
むしろ一つの視点にこだわってしまっていると、本来見るべきである消費者インサイトまで踏み込んだブランドの展開はできません。
ブルーポンド戦略を行うためには、消費者インサイトの発見が欠かせません。
インサイトとはなんでしょう? 一言で言えば「潜在ニーズより深く、消費者自身も気づいていない行動の裏に隠された心理」のことです。
よくマーケティング業界では、インサイトをわかりやすく説明する時にマクドナルドの例が使われるので、私も使わせてもらいます。
2006年の日本マクドナルドでは新商品の開発のため、よく来店されているお客様を中心にアンケート調査を行いました。
「あなたはマクドナルドに何を求めていますか?」
結果は「ヘルシーな食事が食べたい」という声が大多数でした。その声を活かしてマクドナルドは商品開発を行い、新商品「サラダマック」が産まれました。
ところがアンケートでは回答が多数だったにも関わらず、結果サラダマックはほとんど売れませんでした。それからしばらくして終売へ。
しかし、その後開発したビッグマックは爆売れし、現在でも販売する人気商品です。
ここでニーズとインサイトの話が出ます。
アンケートによって得られた「ヘルシーな食事が食べたい」は、あくまでニーズでした。
顧客に定量調査を行っても「インサイト」は出てきません。インサイトとは、本人も自覚していない深い部分にある欲求です。
このマクドナルドの例は非常に極端なケースなので例として使われやすいのでしょう。これは天使と悪魔の戦いなのです。
顧客の中の天使は「健康でいなければいけない=サラダを食べなければ」と考えていました。
しかし実際にマクドナルドに来店される顧客が抱えていたインサイトは「たまには健康を無視してもストレスを発散して食べたい」という悪魔の部分でした。
この悪魔の部分、いわば人間の本質から目を逸らさないで、より深く切り込んでいくことこそが「インサイトを捉える」ということです。
決して定量調査が重要でないと言っているわけではありません。定量調査から得られた情報から、どういった仮説を立てるかが重要なのです。
データは、見方や見る視点でその姿を変えることがあります。そのため、場合によっては一つのデータからは複数の仮説を立てることができてしまいます。
しかし人間はバイアスがかかって物事を見てしまうため、時に一つの仮説にこだわり過ぎてしまい、本質に辿りつけません。
インサイトに辿りつくために必要なマインドセットとは、自らの視点を疑い、あらゆる角度のデータと何度も突き合わせながらその確からしさを検証していくことです。
ここでやっとインサイトの初級編としての解説が終わりました。
インサイトについては更に深くまで踏み込んで話したいのですが、本記事のメインであるブルーポンド戦略を語る上では冗長になってしまうため、次に進みます。
次は「なぜインサイトの発見が必要なのか?」について理解していただいた上で、最後にD2Cブランドを立ち上げる際に何をしなくてはいけないかを説明します。
さて、そもそも何故インサイトの発見が必要なのでしょう? インサイトを見つけられたらそれで終わりではありません。
インサイト単体を見つけても、それは課題の発見のみです。数学で言えば、問題をただ提示されただけに過ぎません。重要なのはそのインサイトをどう解決するか、です。
なぜインサイトを見つける必要があるのか? インサイトは戦略上のバリュープロポジションを決めるために発見します。
レッドオーシャンの章で説明しましたが、全く同じ顧客インサイトに対して競合他社と同じマーケットを攻めることは、最終的にはレッドオーシャン戦略となります。
資金力の勝負となり、流れる血(=赤字)に耐え抜きながら、最後まで我慢比べできた会社の勝利となります。
レッドオーシャンで戦わず、自社の主戦場となるポジション≒ブルーポンド≒バリュープロポジションを決めること、これこそがブルーポンド戦略の考え方です。
この3つの領域を重ねた部分こそがバリュープロポジションです。D2Cブランドを考える際は、まずはとにかくここを見つけてください。
(実際はブルーポンド戦略の策定のためには、市場ボリューム推定のためのデータ分析、世界市場を加味したPEST分析、その商材に対しての間接競合分析など様々な変数を加味するため、そこまでシンプルな物ではありません)
バリュープロポジションを見つけるために考える順番ですが、下記の記事で書かせていただいた順番で検討することが望ましいです。
ここまで真剣に読んでいただいてありがとうございます。
正直この記事を読んでいただくためには、マーケティング知見やEC/D2Cの知見も必要な内容となっていたかと思います。
じっくり真剣に読んでいただいた方でも、正直よくわからんという方もいらっしゃるのではないかと思います。
そういった知識のない方に対してでも、平等に支援を行い、事業をグロースさせるために、私たちchipperは存在します。
chipperは、D2Cブランドの立ち上げをトータルでワンストップ伴走支援を行う、おそらく日本で唯一無二の会社です。
傍から見たら同じような会社は存在するように見えるかもしれませんが、独自のポリシーでクライアントと伴走しているが故に、「唯一無二」と自信を持って表現できます。
その想いを最後に書きます。
D2Cの立ち上げのために、商品企画部分だけを担う会社は存在します。
しかしその多くが事業設計とマーケット視点が足りていないため、消費者のインサイトから落とし込んだマーケットインの軸になっていないことが多いです。
SNSマーケティングやインフルエンサーのキャスティングの支援を行う会社は存在します。
しかしあくまで部分的な提案となっているため、全体から落とし込んだToDoになっていないことが多いです。
D2Cとはビジネスの総合格闘技とよく例えられます。それは、あまりに変数が多く、取るべき戦略が状況によって大きく変動するためです。
そのためchipperでは、D2Cの本質的な支援は一つのことに特化して行うことでは為し得ないと考えています。
D2C支援を行うためには、あらゆる変数の相関性を深く理解し、短期的な視点と長期的な視点の双方をバランス良く考え、かつ現状のマーケットに対しての正しい理解が必要です。
商品の企画も、プロダクト起点での発想ではなく、マーケットからの逆算(マーケットイン)で考える必要があります。
ここまでの内容を否定するようですが、戦略もブルーポンドありきで考えてはいけません。ブルーポンド戦略はあくまで「採用することによりメリットが出る可能性のある手段の一つ」であり、本質論ではありません。
ブルーポンド戦略の概念を取り入れながらも、マーケットの未来予想次第では、あえてレッドオーシャンで戦うこともあります。
会社の持つイメージ戦略や、SDGs×経営理念の落とし込みから、ブルーオーシャン戦略を取るべきこともあります。
このように、判断軸があらゆる変数で臨機応変に変動するのが現在のD2Cのマーケットです。
その判断のためには、当然知識も必要です。しかし最も重要であるのは、組織理念などの「パーパス=なぜこの事業を行うのか」という目的論であり、それが事業に落とし込まれることです。
そのため、「コンサルティング」という第三者視点ではなく、当事者として(=クライアントの一員として)クライアントの理念を深く汲み取りながら「伴走支援」を行う必要があると考えました。
「D2Cコンサルティング企業」は多数あれど、「D2C伴走企業」は唯一無二と考えています。
共に事業を創り上げ、成長させていくことに興味を持っていただけた方は、下記よりお気軽に問い合わせください。
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② EC業界の構造変更について
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③ CPAとLTVの考え方
売上LTVと利益LTVに言及しながら、事業改善策についてお伝えいたします
④ これからのマーケティング戦略
VUCAの時代における事業のあり方について考えていきます
⑤ EC事業構築の考え方
「1年後以降も利益の出る事業」について2つのマーケティング手法を伝授いたします