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#読書感想文 1冊目:『マイノリティデザイン―弱さを生かせる社会をつくろう』

2021/08/10
読書感想文1冊目「マイノリティデザイン」

苦手なことってありますか?
私はサウナに入ると毎回体調を崩します。
運動と算数(数学以前に)が苦手です。生姜とパクチーが食べられません。

人は誰でも、何かしらの弱さを抱えている…いわばマイノリティである。
そんな弱さを活かし、コンテンツマーケティングを展開させた本が、この『マイノリティデザイン―弱さを生かせる社会をつくろう/澤田智洋・著 ライツ社』 です。

日本テレビ「シューイチ」、NHK「おはよう日本」などにたびたび出演。本書の著書は、SDGsクリエイティブ総責任者ヤーコブ・トロールベック氏との対談をはじめ、各界が注目する「福祉の世界で活躍するコピーライター」澤田智洋。

こんな話があります。

「ライター」は、もともと片腕の人でも火を起こせるように発明されたものでした。「曲がるストロー」は、寝たきりの人が手を使わなくても自力で飲み物を飲めるよう作られたものです。それが今では障害者、健常者、関係なく広く利用されています。障害者にとって便利なものは、健常者にとっても便利だからです。

つまり、「すべての弱さは社会の伸びしろ」。
ひとりが抱える「弱さ」を、世界を良くする「力」に変えるアイデアのつくり方。それがマイノリティデザインです。

大手広告会社で名だたる企業のCMを手がけるコピーライターだった澤田氏は、自身の息子が目に障害を持って生まれてきたのを機に、「広告をつくらないコピーライター」となりました。そして、活躍の舞台を広告業界という「マス」の世界から、福祉業界という「マイノリティ」の世界にスライドさせ、「弱さ」を起点に社会課題を解決する仕掛け人となります。

その活動は多岐に渡ります。

・福祉器具である義足をファッションアイテムに捉え直した「切断ヴィーナスショー」
・視覚障害者の「足」と寝たきりの人の「目」を交換する「ボディシェアリングロボットNIN_NIN」
・過疎化地域への移住を劇的に促進させたPRプロジェクト「高知家」
・ユナイテッドアローズと立ち上げた、ひとりの悩みから新しい服をつくるレーベル「041」
・運動音痴でも日本代表選手に勝てる「ゆるスポーツ」etc……。

苦手、できないこと、障害、コンプレックス=人はみな、なにかの弱者・マイノリティ。テレビやウェブで話題になった数々の仕事、その全貌を書き下ろした、ビジネス書としては澤田氏初の書籍となります。

 

本の概要

この本で描かれているのは、コンテンツビジネスのメイキング過程です。

それまでの広告業界での経験と、視覚障害児の父親からの視点、そして自身もある点においてはマイノリティであるという気づき・当事者意識と、電通パワーを掛け合わせて取り組んだ「苦手」「できないこと」「コンプレックス」「障害」を抱える人たちのための活動が、それ以外の多くの人も助けることになり、大きなビジネスとなった経緯が語られています。

マイノリティがマイノリティのままに

大抵のマイノリティ克服論は「どれだけマジョリティに近づけるか」を提唱するもので、実行しようとすると精神的にも肉体的にもしんどかったり、マイノリティの出来ることを一方的に限定されすぎて馬鹿にされているのかと思ってしまったり、
「マジョリティ何様だよ」と思わされるような上から目線を感じたりもする。
「僕たちは多様性を重視します!」っていったって、自分に許容できる範囲のバリエーションしか認めないんですよあいつらは。
結局できないものはできないので、無理して頑張っても敗北感に打ちのめされて終わる…
あと何度こんな思いをすれば、マジョリティになれるのか。

この本ではマイノリティがマイノリティのままに、楽しく特性を活かせるソリューションを考えて活動が実例としてたくさん載っています。
それどころか、それまで有利だった健常マジョリティの方が不利な条件で勝負に挑む可能性もあります。
これならスポーツが苦手な自分でも楽しめるかも!と思わせてくれます。

「マイノリティ」の定義が、障害などの医学的な名称がついているものだけでなく、個人レベルでの苦手なものやコンプレックスまでを含んでいることが間口の広さを感じさせてくれました。

 

仕事人として

それまでの仕事とは別の視点から活動を始める人は、会社を辞めて独立することが多い印象ですが、著者の澤田智洋氏はそれを電通に残ったままやってるのがすごい(すごいけど、だからこそできることかな、とも思う)。
採算度外視したエモーショナル100%などでは決してなく、しっかり数字の話も出てくるのも、さすが電通のビジネスパーソンと思わせてくれます。

後半には澤田氏がそうしたように、自分のための働き方を示す「自分をクライアントにして企画書をつくる方法」が記されていて、ビジネス自己啓発書としても、とても参考になります。

 

「だれかの弱さは、だれかの強さをひきだす」

この本の中で、最も私の心に残ったフレーズです。
「苦手」「できないこと」「コンプレックス」「障害」を抱えた人々がもっと生きやすくなるための解決方法は、それを解決する手段を持っている人々の活躍の場を作ります。
助けられるつもりが助けていたなんて、とても嬉しいことですよね。

自分の弱い部分のせいで自信を無くすことも多いけれど、そんな弱さを持っているからこそ誰かの力になれるというとても心強いお話。

マイノリティもマジョリティも、お互いに楽しくなれる新たな潮流を生み出す
コンテンツの作り方をこの本は教えてくれます。

 

コンテンツメイキング、ブランディングの過程を知るのに大変役立つ

この本で構築されているコンテンツビジネスは、決して外部から眺めているだけでは実現できません。
自分もその領域に飛び込んで初めて展開できる様々なファクターがあり、それは私たちが行う事業展開にも重要であり必要な視点と考えます。

さらにこの本では、「動機」「ターゲットの策定」「顧客目線に立ったソリューション支援」など、
参考にできるプランニングが多いです。
それをビジネス指南書としてではなく、あくまで澤田氏ご自身の思考過程を追っていく形で、一人の男の仕事の向き合い方として描かれていくので、今までそういったビジネス本でイマイチしっくりこなかったという方も、この本なら読みやすいのではないでしょうか。

 

この本のこだわりは、ぜひ紙の書籍で

『マイノリティ・デザイン』が発売されて話題になっていると知ったとき、amazonではすでに紙書籍は売り切れていたので電子書籍で買いました。

その後、たまたま本屋さんで並んでいるこの本を見かけたのですが…
実物を見て初めて、表紙の真ん中に点字加工が施されていることに気づいたのです。
普段はあまり電子書籍で買った本を紙で買い直すことはしないのですが、今回ばかりは買ってしまいました。

マイノリティデザイン表紙の点字

紙書籍で読み進めていくと、自然に指が点字に触れ、目で字を追っていくだけではなく指でも読み進めている感覚があります。
同時に、視覚障害者ではない人(紙書籍を手に取って読むのはたいてい晴眼者と思われます)に向けて、この凸凹に自然に指を触れさせるこの仕掛けにこそ、著者の活動の覚悟や想いや集大成がシンプルにダイレクトに表現されているように感じられました。

私には身体障害はないものの、いろんなことができなかったり苦手だったりするのは冒頭の通りです。
できないことをできるはずだと思い込んで、理想と現実のギャップに苦しんだ時、そんな自分だからこそ実現できることもあるだろうと希望が持てます。

 

例えば、今のビジネスに弱点を抱えていると思われている方。
chipperに一度ご相談いただいたら、そんな弱みを唯一無二の強みに変える方法を、一緒に考えだせるかもしれません。