2020年の新型コロナウイルス感染拡大を受けて、人々のライフスタイルや価値観は大きく変わってきています。
電車の吊り革につかまる、店頭で洋服を試着する、友人と朝まで酒を酌み交わす・・・これまで当たり前にできていたことが昨今の非常識へと変わり、新型コロナウイルスとの共存を前提とした行動様式が“New Normal”とされる時代に。
様々な制約が課された日常、自由の利かない毎日に人々の心は疲弊しつつあります。
そんな中、刻一刻と変わる世の中のニーズに、時には従来のサービスの在り方を変えながら迅速かつ柔軟に対応することが、現代のビジネスには求められています。
既に数多くの企業が、今日のディストピア的社会に即したサービスへとシフトし、人々に従来と同等、またはそれ以上の価値を提供すべく動き出しています。
だからこそ、既存のニーズを満たすだけでは、このコロナ禍において数多の競合商品や類似サービスとの競争を勝ち残っていくことは至難の業と言えます。
人々が商品やサービスを使用する際に、何を考え、何を求めるのかを、ユーザー視点に立って分析し、世の中が潜在的に望むものを先回りして提供すること。
また、商品やサービスを利用する機会を提供するだけでなく、ユーザーの「楽しい」や「心地よい」等といったプラスの感情を喚起すること。
こうした優れたユーザー体験の実現が、新型コロナウイルスとの共存を図る新時代においては、特に重要なことです。
UXデザインの大原則として、常にユーザー視点に考えることを忘れてはなりません。
一方で、商品やサービスを開発・提供する立場として、業務の効率性や利益についても当然考慮する必要があります。
ユーザーの満足体験と企業利益を同時に創出することこそ、あらゆるビジネスにとっての理想の在り姿と言えます。
そしてこれを実現しているビジネス例のひとつが、世界的なテーマパークとして人気を誇るフロリダのウォルト・ディズニー・ワールドです。
世界で最も新型コロナウイルス感染者が多いアメリカ。
その累計感染者数は今や約2,000万人と、全世界の感染者数のおよそ4分の1に到達する勢いで伸び続けています。
ディズニー・ワールドがあるフロリダ州では、現在までに約130万人が新型コロナウイルスに感染しています。
このような状況において、ディズニー・ワールドでは、世界中から訪れるゲストの安全を第一に据えたガイドラインを新たに定めました。
新ガイドライン下では、食べ歩きの禁止、密集が生じ易いショーや大規模パレードの休止等、ゲストにとってあまり好ましくない様々な制約が課されています。
その為、ディズニー・ワールドは「Get ready to rediscover Walt Disney World Resort.」を掲げ、感染対策を徹底しつつ、ゲストに最高の“Happiness”を届けられるよう、数々の工夫や演出を施しています。
今回は、コロナ禍におけるディズニー・ワールドの卓越したUXデザイン術をひとつひとつ紐解いていきます。
ディズニー・ワールドでは、アトラクションの列に並ぶゲスト間のソーシャルディスタンスを保つ為、ゲストの足元にマーキングを施す等の工夫をしています。
この感染対策によって必然的にアトラクションの列が長く伸びる為、一見すると長時間待たなければならない印象をゲストに与えてしまいます。
これに対し、ディズニー・ワールドは、リアルタイムの待ち時間を公式アプリ上で表示させることで、待ち時間が想定しにくいことに対するゲストの不満や不安感を軽減しています。
更に面白いことに、列に並ぶゲスト同士の間隔が広くとられている為、一度列が流れ始めると、通常時に比べて進むペースが非常に速く感じられるのです。
これにより、ゲストは「確実に列が進んでいる感覚」が得られ、立ち止まっている時間が短い分、疲労感やストレスが少なく済むというメリットがあります。
ディズニー・ワールドは、ゲストとキャストが対面するフードワゴンや、ゲスト同士の距離がどうしても近くなってしまうアトラクションの列の各所に、飛沫防止用のクリアボードを設置しています。
また各アトラクションにおいては、ロット毎に消毒作業を行わない分、入口と出口それぞれに自動の消毒液ディスペンサーが備え付けられています。
これらの対策により、アトラクションの回転率を下げずにゲストとキャスト両方の安全を図れるだけでなく、ゲストの自分で自分を守るという意識を喚起することもできます。
コロナ禍においては、直営ホテルのサービスも、ゲストと従業員それぞれの安全を考慮し、必要最低限に抑えられたものとなっています。
例えば、宿泊部屋の清掃は隔日で行われ、清掃が入る場合も、基本的には使用済みのタオルを交換したり、無くなったアメニティーを補充したりといったライトクリーニングに限定されています。
もちろん、ゲストからの要請があれば、安全が確保される範囲内においてサービスを行います。
ゲストの「快適さ」は維持しつつ、従業員とゲストとの必要以上の接触を減らした安全第一のオペレーションとなっています。
アトラクションだけではなく、食事についても、安全で楽しい時間をゲストに提供しなければなりません。
今般のパンデミックを受けて、ディズニー・ワールドでは、新たな食事提供システムが導入されました。
ゲストは公式アプリを使って、クイックサービスのレストランやフードワゴンのメニューの中から食べたいものを注文し、準備完了のお知らせが届いたら食事を受け取りに行く、というシンプルな仕組みです。
注文時には受け取り時間を指定でき、また準備の進捗が視覚的に分かるようになっています。
これにより、ゲストは列に並ぶことなく、スムーズに食事の注文と受け取りができるだけでなく、食事を受け取るまでの時間を有効活用することも可能になります。
この新しいオーダーシステムは、世界のフードデリバリー市場において約30%のシェアを誇るUber Eatsのアプリと同様のプラットフォームを利用している為、多くのゲストにとって馴染み易く、混乱が生じにくいことも特筆すべき点のひとつです。
ディズニー・ワールド側にとっても、人々の密集を防げるだけでなく、食事提供をロットで効率的に管理できます。
ゲストからはコロナ禍のみならず常時導入してほしいとの呼び声も高い、非常に便利で革新的なオペレーションシステムとなっています。
コロナ禍においては、ディズニーキャラクターとの距離が近いグリーティング、密集が生じやすい大規模なパレードやショーの殆どが休止しており、この措置によって落胆するゲストが非常に多いだろうということは、想像に難くありません。
そこでディズニー・ワールドでは、一日を通して定期的に小規模パレードを行ったり、パーク内各所にディズニーキャラクター達がランダムに現れたり、コンテンツが限られた中でも最大限ゲストが楽しめるよう、様々な工夫をこらしています。
平常時よりも、ディズニーキャラクターの種類、出会える機会共に多く提供されていますが、ランダムで出現する為、ゲストはいつ彼らに出会えるか分からないワクワク感を味わえますし、出会えた時の喜び自体も、ひときわ大きくなります。
また多くのゲストが楽しみにしているショーが開催できない分、夜間を通してシンデレラ城のプロジェクションマッピングを楽しめるよう、プログラムが変更されています。
クリスマス等季節イベントに即したテーマの映像を投影していますが、それだけでなく、15分毎にデザインを一新し、ローテーションさせていく等、人の滞留を防ぎつつも、ゲストを飽きさせない工夫も施されているのです。
これまで、コロナ禍におけるディズニー・ワールドのUXデザイン術をご紹介してきました。
上記以外にも、事前入園予約システムの導入や、入園前の検温の実施等、ゲストと従業員の安全を確保しつつ、最大限ゲストを楽しませる為の工夫が髄所に見て取れます。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、一時は休園という過酷な状況に追い込まれたディズニー・ワールド。
ウイルスに対する恐怖や、テーマパークの感染対策に対する不安は、ゲストの没入感や満足度を著しく低下させてしまいます。
数々の変革によってゲストの「安心」と「楽しい」を両立させ、更に最新システムを惜しみなく活用することでオペレーションを効率化、ビジネスとしての収益ポイントを強化してさえもいます。
今回ご紹介したディズニー・ワールドのように、世界中の企業が、あらゆる手法を用いてビジネスの新しい在り姿を模索し続けています。
様々な制限や制約が課され、多くの自由が奪われつつある時代において、人々の新たなライフスタイルをどのように形作っていくのか、今まさにビジネスとしての力量が試される時なのです。
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